アナログかデジタルかみたいな議論になるとレコードやPCについて触れられる機会は多いけど、CD-Rについてはあまり語られないような気がするので、これを機会にまとめておきやす。意外にCDにもDopeな世界があるんす。光る円盤に取り憑かれた男達のお話です。
■まずCD-Rについて語るのであれば、彼の名前は外せやせん。
森康裕(モリヤスヒロ)
貫禄の風格
1975年生まれ。CD-Rが開発された1989年頃からその魅力に取り憑かれ、「青春の大事な時期をすべてCD-Rに費やしてしまった。」と言い切る狂気の男。CD-R界の鉄人。趣味は、CD-Rメディアコレクションで常時4万枚をストック。名機CDW-900Eを愛するあまり30台以上も所有し、CDやDVDといった光学メディアの性能を測定し解析することに異常な執念を燃やしてます。大学で非常勤講師してた(今もしてる?)こともあるらしく、専門は半導体光素子(LD)を使用した植物栽培だそうす。
CD-Rに関する著書もあって、「CD-R/RW 活用とメディア選び」はボクも持ってます。
■まずは森氏による伝説の金言をピックアップ。これでCD-Rシーンの熱が伝わります。
「(現在のCD-Rメディアは)駄菓子やハンバーガーのように低価格になって品質も悪くなり、“心”がこもっていないものが沢山あります。それに比べ、昔のメディアは良かった。今と違って丁寧に作られているので品質も良く、音も段違いですよ」
「最近では、平気で直射日光の下で販売されていたりしますし、秋葉原などの専門店だとメディアのケースが積み上げられ、下が潰れていたりします。これじゃあ、ただでさえ品質が悪くなりがちなのにもっと悪くなりますよ」
「昔のドライブは作りも良く、メーカーもちゃんと設計していたのですが、最近の高速ドライブは、利益重視で音が悪い“へなちょこドライブ”ばかりで使う気になれません。」
■使用機材も半端ない。
森氏が使用している信濃電気製電源装置
良い電源こそメディアに命を吹き込むという氏の理想を体現している
水準器を使用してドライブは常に水平に
「CDW-900E」コレクションの一部。
写真は12台だけだが実際は30台以上あるらしい。
オリジナルの端子に自作ケーブルで最大16台を同時接続可能。
個人で16台も使って同時複製する機会があるんだろうかw
■歪んだ情熱は、ついに自らのブランド森メディアを作るまでに至る。製造後に1枚1枚すべて手作業でエラーチェックするという狂気の沙汰。
発売当時のインタビューで語っていた「欲しかった。作るしかなかった」という言葉が重い。
桐箱に納められた森メディア(DVD-R)
氏のメディア愛を感じます
夢を叶えた男の顔
そんな森氏が史上最高のメディアと評するのは以下の2枚。リコーもお気に入りみたい。
太陽誘電「CDR-63/570P」(左)
三井東圧化学「MTCDR-63」(右)
「他にも記憶に残っているメディアはありますが、強いてあげればこの2枚が最高でした。特にCDR-63/570Pは、素晴らしいメディアで、CDW-900Eと組みあわて記録したらそれは良い音がします。現在、この品質に近いメディアがあるとしたら、唯一、リコーのNY74+MAぐらいでしょうか……」
リコー「NY74+MA」
超高価プロ用CD-Rと称し1枚8000円
他にも一時期オーディオマニアの間では、高級CDが流行り色んなものが出てやした。最も高いCDとして有名なのは、エヌ・アンド・エフ社とトエミ・メディア・ソリューションズ社が共同開発した「ガラス製」のCDとかも有名。発売当時の2006年で98,700円という暴挙w
Extreme Hard Glass CD
注)Rではなくrom
正直、メディアごときで10万円というのはボッタクリと思いやすが、それほどメディアシーンに熱があったということなんでしょう。
■製造面からCD-Rの歴史を語る上で鍵となるのは、長野県にあった伝説の「千曲川(ちくまがわ)工場」。
CD-R黎明期には、CDの代替品としての意識が高かったせいかハイクオリティでメディア生産をやっていた傾向が強く、TDKの千曲川工場もOEMによる生産委託ではなく自社生産をしていますた。当時は、CD-R界の名ブランド太陽誘電と並んで圧倒的な信頼性を誇っていたそうな。
しかし、時代の流れから千曲川工場は大量生産系の工場にシフトしていきます(ちなみに現在の工場名は「千曲川テクノ工場」になっています)。
2005年に工場が閉鎖された当時のネットに残るログをあさっていくとCD-Rシーンに大きな衝撃が走ったことが見てとれます。千曲川工場がCD-Rの生産を止めた翌年の2006年3月8日にはTDKが記録型CD・DVD製品生産からの撤退を発表したように、以降CD-Rシーンはその場しのぎの消費メディアとして性格を変え容量、書き込みスピード、低コストをひたすら追求する道を歩んで行きます。
ちなみに千曲川工場には、賄賂課と呼ばれるキナ臭い部署があったという噂があったりと、ミステリアスな部分もあったみたい。
もちろん森氏も色んなインタビューで千曲川工場への想いを語ってます。
「個人的には、昔のメディアが一番欲しいです。というのは、低速用のメディアを設計しても、旧型のドライブにとっては未知のものであり、完璧なライティングは望めません。そう考えると私が、現在一番欲しいのは、TDKの千曲川工場で作られた1-8倍速対応の初期のタフネスコートです。これだったら、CDW-900Eとの相性も良いですし、現在のドライブでも問題が起きません。ひそかに復活してくれないかと期待しているのですが……」
実際に森メディアでは、日立マクセル製(水海道工場製)、TDK(千曲川工場製)、太陽誘電製(OEMは除く)しか扱わないと宣言し、既に廃盤となったプレミアメディアも高価買い取りまでしています。ちなみに、ボクはDJ用で使うCD-Rは森メディアで販売している太陽誘電の業務用CD-Rを使ってます。
■「完璧なライティング」を求める姿勢こそ、光学メディアシーンの根底に流れる美意識。ただ、これを音楽不在だとかフリークスの戯れ言として軽視するのは間違いで、創作物に対して誠意と忠実さと技術をもって接するという点でみれば立派な2次芸術であって、菅野沖彦氏が提唱するレコード演奏家論にも通じる哲学です。ちなみにこのHPでは何度も書いてやすが、ボクはDJもこの2次表現者に含まれると考えています(正確には表現者というよりも職人に近いと定義付けてやすが)。この考えを広義にあてはめていけば、リスナーやユーザーも3次、4次といった当時者となりえると思ってやす。コラージュやサンプリングといった手法が音楽、映画、文学などに与えた影響をみてもわかるように、受信という行為自体にも表現に似た価値が生まれるんす。
■森氏と並び、この業界で忘れてはいけないのは、ドライブディガーことYSS氏。ドライブの購入暦は200台を軽く超え、現行のドライブも随時検証、分析するドライブ界の掘り師です。彼の管理するCD-R実験室は、CDやDVDといった光学円盤メディアに関するアーカイブとしてはおそらく世界最強。2000年から今まで延々更新され続けてます。
以前は、YSS氏と森氏が同一人物という説まであったくらい。実はボクも一時期そう思ってましたが、どうやら違うみたいです。森氏とは対照的に謎のベールに包まれたキャラが渋いっす。
■既に衰退期に入ったシーンとはいえ、新たな世代も生まれています。最近、ボクが注目しているのは、価格.comに出没する『プレク大好き!!』さん。ハンドルネームが表すようにPlextorマニアで20代というCD-R業界ではフレッシュマンにして恐らく最後のオメガ世代。掲示板の書き込みを見ると、どうやら森氏とも知り合いらしい。ボクも森さんとお話してみたいんだけど、どうやったら知り合いになれるんだろうか。。。
特に、先日発売された高級CD-RドライブPlextorのPremium2Uについて、価格.comで繰り広げられたレビューは手に汗握りやす。発売されて数日で、ACアダプタが外注製でアンペアが低いことを検証し、電源部に関しては旧式(内蔵型)からグレードダウンしたという点を指摘、終いには今は無き63分盤CD-Rの音質について熱い想いが語られています。今、2009年ですよ。。w
■とにかくCD-Rシーンにいる人間は、強迫観念というかノイローゼに近い凄みを感じやす。オーディオマニアともまた違う匂いですね。エラー値の測定というネガティブ要素をひたすら計測することを求められ、一般人に理解されないという点ではピュアオーディオの比ではないはずなので、かなりの精神力を求められる世界であることは間違いなさそうです。
毎度のことながら長くなってしまったので、次回はドライブとかメディアについて語ってみたいと思いやす。
≪ 続きを隠すYAMADAtheGIANT | 2009年08月22日 | A/D, Audio, Classics | コメント (9)