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right.gif The Star Rover

ジャック・ロンドン/星を駆ける者
(森美樹訳、ドラキュラ叢書)

以前、紹介したアポロの彼方と並ぶフラッシュバック小説を紹介。友人のunnoが「生涯のベスト小説」に挙げていたカルト作をやっと見つけやした。分類でファンタジーに入るんだろうけど、そんなやわな言葉では片付けられないDopeシット!!結構レアだけど、ボクは3冊買って2冊は人にプレゼントしますた。

■ネタバレしない範囲でまとめると、あらすじはこんな感じ。
「大学教授ダレル・スタンディングは、同僚を殺した罪で終身刑を宣告され、カルフォルニア州立刑務所に収容される。そこで彼は看守に反抗的な態度をとったことから、毎夜のように狭窄衣による執拗な拷問を受けるようになり、やがてエスカレートする苦しみから逃れるよ肉体から精神を離脱する術を身につけるようになる。狭窄衣を触媒として時間と空間を超越することに成功したダレルは、刑務所にいながら星を駆け夢幻の宇宙を限りなく飛翔する存在となっていく。」

要は、目を背けたくなるような密室での拷問描写と、あらゆる時代や場所でめくるめく冒険潭が交互にフラッシュバックしていきやす。衰弱し死を待つだけの囚人でありながら、強烈な生を感じさせる冒険者でもあるという逝っちゃってる設定。

狭窄衣にくるまれて「ん〜ん〜」と苦しんでいると、いきなり別世界へ離脱。無人島に漂流してアザラシを食料にひたすらサバイバルする様が描かれたと思えば、中世フランスで命と名誉をかけて決闘してたり、1600年代の朝鮮半島に流れ着き王族となった白人の一代記が延々と始まったりと、それぞれで一冊書けちゃうくらい濃ゆいストーリーが随所に挿入されてきやす。これらのストーリーが自己防衛的な空想だったら逃避だけど、遠い昔に実際にあった主人公の前世の記憶として描かれているから、超越という表現がふさわしいわけす。んで、精神がめくるめく冒険をして肉体へ戻って来ると、狭窄衣で「ん〜ん〜」となってるという繰り返しw
 こんな1915年に発表して、誰が正当に評価できたんだろと(爆)文学って言えば文学だし、ハードボイルド、ファンタジー、SFなどなど早熟過ぎる要素がふんだんに盛り込まれてやす。

■ちなみに、狭窄衣ってのはこういうやつ↓。靴ひもをキツく結ぶと足が痺れるような感覚になるけど、それが体全体に広がるという仕組み。

写真は2pac

■森美樹氏による訳も素晴らしいす。特に好きなのが、ダレルが初めて精神を解放するシーン。

「そして、わたしは光の明滅とともに舞い上がった。ひと飛びで、刑務所の天上を越え、カリフォルニアの空を舞い上がり、星の世界に到達した。わたしは子供だった。冷ややかな星の光を浴びてチラチラ光る、羊毛に似たしなやかな、繊細な色の衣服をわたしは身にまとっていた。もちろん、その衣服は、子供の頃に見たサーカスの芸人の衣装や、幼い頃に思いをはせた若い天使の衣装がもとになっていた。(中略)手には長いガラス状の杖を携えていた。この杖の先端で、通り過ぎて行く星の1つ1つに触れなければならないことを、私は確信していた。」

んが、実際は密室で狭窄衣にガチガチに縛られているという対比。

■拷問はどんどんエスカレートしていくんだけど、成人男性なのに体重が40kg台にまで減ったり、10日間も連続狭窄されたりとか、狭窄衣を2重にされて骨が軋んだりとか、も〜むちゃくちゃ。
 原文でヤバそうな箇所を拾い読みしてたら「he doublejacketed me(看守は私の狭窄衣を2重にした)」とかあって爆笑。ダブルジャケットミーって(ブハハハ こんな表現を使ってるって後にも先にもジャックロンドンだけでしょ。極めつけは、ダブルジャケットにされた主人公の返答。
「Make it a triple jacketing,(3重にしてくれ)」

■主人公はずっと独房にいるのですが、壁を叩く音を暗号化して離れた独房と通信するシーンも好き。何日もかけて暗号を習得していく様は、キテやす。通信中ではこんな名言も。
「狭窄衣に包まれて死ぬ事、つまり意識的に死ぬことだ。」

■ちなみに、以前のPureselfの煽り文で使用した"光彩陸離"という言葉は、終盤の回想シーンから取っています(多分この単語自体を広めたのは夏目漱石っぽいですが)。

「星は絶え間なく動き続け、天空も変化し続けるが、この世にもただ一人の、光彩陸離たる女が存在し続ける。ちょうど私が、ただ一人の男として存在し続けたように。」

ん〜こういう感じ好きっす。。

■作者のジャックロンドンは、母親がオカルト好きで、実の父親は占星術師(育ての親は別人で、母親の再婚相手)という特殊な家庭環境に生まれ、15歳でアルコール中毒になったり、漁船の乗組員からジャーナリストや小説家まで世界中を転々として、最後は自殺してしまうという波乱万丈な人生を駆け抜けた人物。動物小説が有名みたいだけど、SFやファンタジーっぽいのも何本か書いてるみたい。ここで紹介した「星を駆ける者」は、彼の作品群の中でもかなり異質っぽい。機会があったら、近未来SFらしい『赤死病』を読んでみたいっす。誰か持っている人いたら貸して下さいです。

Jack London
1876-1916

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