Barry Nathaniel Malzberg
公式(?)HP
大好きな作家。
『1939年ニューヨーク市出身。同市の福祉調査員、版権代理店社員(仕事熱心で伝説的な記録を打ち立てた)、『アメージング・ストーリーズ』誌と『ファンタスティック』誌の編集長を経て作家になった。1973年に『アポロの彼方』でジョン・W・キャンベル記念賞を受賞。1975年頃からSF離脱宣言を行なったがその後も作品を発表し続けている。』(wiki)
度肝を抜かれた一冊。当時のキャッチコピーにある"This is a puzzling book with a puzzling plot."という表現がぴったりで、67回のフラッシュバッグと1通の手紙で構成された狂気の世界に、圧倒されやす。2人の宇宙飛行士が人類初の金星有人探索へ旅立つんだけど、戻ってきたのは1人でしかも狂っていたという話。
科学SFを期待して買ったら大ハズレにせよ、それでも痛快なSFす。NYの作家らしいユーモアとパルプ加減に溢れた、文学な世界。
精神病棟やら宇宙船やら夫婦生活といったシーンが矢継ぎ早に押し寄せ、加速していく狂気と官能が独特の文体で綴られてやす。最終的には物語すら破綻して現実に投げっぱなされるわけだけど、ボクはむしろ清々しい気持ちになりやした。
ニューロマンサーとかでおなじみの黒丸尚が惚れ込んで翻訳したのも頷けやす。多分、黒丸尚の仕事の中でもかなり上位に来るはず。冒頭から「金星(ヴィーナス)よ永遠にッ。金星へッ。」("ッ"がヤバい)とか、かなりトバしてて楽しみながら翻訳してるのが伺えやす。他にも女性化された金星と抱き合いながら金星へダイブするシーンや、アポロ号の機材と同化して船内を眺めているシーンとかキテます。船長の告白シーンなんかも、この作品の世界観をよく象徴してやす。
「本気であの豚に惚れてたんだ」
「あれだけが本当の意味で俺の物になった生き物だった。そのうち俺は人間関係に巻き込まれて、全部メチャクチャになった」
J.G.バラードが描くような狂気はある意味で均整が取れてるような気がしてそれはそれでいいんだけど、個人的にはマルツバーグのようなふざけた狂気の方が親近感を感じるしクールだと思ふ。
原文はここで全て読めやす。
マルツバーグの処女作。
福祉課に勤めるしがない主人公が退職を決意した週末を描いているんだけど、これまたブッ飛んでやす。主人公は、13歳の頃から映画の中の出演者に自分を重ねるあわせることだけを楽しみに生きていて、次第に妄想が現実まで浸食してきて現実と虚構の境目が薄れていくという話。映画館の中で、一瞬でスクリーンの世界にジャックインしていく描写が凄い。とは言っても、映画の内容はほぼ関係なくて、狂気と官能の世界が彼の頭蓋骨の中で延々と繰り広げられやす。
主人公の妄想シーンには実名でソフィアローレンだのオードリーヘップバーンだの当時のトップ女優が独自のキャラクターでバンバン登場するので(今じゃ絶対許されないよね)、当時は異色ポルノとして評判だったみたい。ただ、実際の内容はマルツバーグ節炸裂なので、ポルノと呼ぶにはあまりにも狂い過ぎw
話なんてあるようで全くないけど、一気に読んでしまいやす。マルツバーグ作品の根底に流れる「わたしは少数派であるが、至って正常である。狂っているのは、お前らだ。」というメッセージは、この頃から完成されてやす。狂気とは正気であるみたいな。一見、ジメジメした暗い話になりがちだけど、むしろニヤリとできちゃうシーンが多いのが魅力。
■マルツバーグはかなり多作な作家にも関わらず、かなり特殊な作風からか長編は2作しか翻訳されてやせん。SF作家の狂気と悲哀を描いたらしいHerovit's Worldが気になってるんですが、未訳で訳されることもまずないだろうから、そのうち原文に挑戦するしかないのかな。。。
他にもビル・プロンジーニと共作をよく書いてやすが、こっちは文学というよりはトンデモミステリーで娯楽に徹してやす。ただ、女性キャラクターの描写が異様に生々しかったり、くだらないプロットを一気に読ませるスピード感といったあたりでマルツバーグ節は楽しめやす。
ちなみに、マルツバーグは版権代理店に勤めていた頃は、1日に長編5作、短編18本を読破していたらしく、投稿されてきたデビュー前のプロンジーニ作品を読んで、「自分一人では完成できない短編がいくつかあるから、一緒にやろう」と手紙を出したのがきっかけらしいす。ブロンジーニは『1001 midnights』なんていう1001作ものカルトミステリーを網羅したレビュー本を出版してるし、二人とも相当オタクっぽい。
■小説としてかなり面白いので、興味ある人は是非。上で紹介した2冊は、どちらも新訳は出てやせんが、中古掘れば買えると思いやす。