前回からの続きです。AT7Vをm97xeを中心に比較してみますた。
■AT7Vはエージングが終わってから他針と比較しやした(エージングは単なる耳の慣れなのか他要素なのか個人的にハッキリした回答はできやせんが、感覚上の変化は確かにあるので客観性を高めるには必要と判断してやす)。
昔にセールで買って新品状態で眠っていたPickeringのヘッドシェル、同時期に購入したWestern Electricのリード線がそれぞれ2セット分あったので、Shure m97xe、AT7Vに繋いで可能な限り同じ環境でテストを行ってやす。インプレは自分が感じた印象を誤摩化さずに書くよう努めてやすが、所詮は個人レベルのテストなのと、新しく買った製品に対する贔屓目もあるはずなんで、各自で判断して下さいです。
■m97xeもAT7Vもダンスミュージック用ではないので、まず一般的なDJ針と比較しやした。ボクや知人が所有していたNight Club E、Pickering 625DJ、Shure White Labelを、聞き慣れたLIVEraryの環境で試聴。
音源については、楽器(打ち込み or 生音)、音数、展開、音圧、盤質、ジャンル、年代などが異なるレコードを幅広くかけるようにやした。良音盤だけでなく盤質に不純物が入ったシカゴハウス盤や、スカスカのLPとかもかけるようにしてやす。ダンスミュージックでも年代によってマスタリングが違ったりするので、こういった辺りもなんとなく意識してやす。
これは現場でのサウンドチェックでも同じような考えでやってるんですが、幅広い音源をかけることでシステムの許容範囲や懐の深さが図れると思ってるからっす。例えば、マスタリングやカッティングの良いレコードばかりだとカートリッジが頑張らなくても綺麗に再生しちゃうこともありえるので。あと、このHPで何度か書いてやすが、Theo ParrishやJeff Millsなどのデトロイト系のレコードはエグイカッティングがされているので、トレース能力を図るには便利です(例えば、初期Night Club Eなんかは再生できないレコードがありやす。今のモデルは知りやせんが・・・)。
んで、これらのDJ針との比較では、Shure m97xe、Audio Technica AT7Vが解像度、定位、全体の音質バランスともに頭一つ抜けている印象でした。特に高域に関しては、明らかにDJ針の方は鈍っているので空間性やキレという部分で弱くなる気がします。
高域が出る=シャリシャリと思われがちですが、実は高域が出ないと低域のキレまで悪くなりやす。これは、バスドラムやベースにもアタック音(最初に鳴る部分)には高域成分が含まれているからです。当然、残響音など微細な部分にも高域成分は関わってきやす。ピュア針で異常に上の周波数を再生しようとしているのはそのためです。
なので一聴した際に認識しやすいハイハットの印象だけで、音質を調整したり判断するのは危険っす。ボクはアナログっぽい音とは嫌味がないことだと考えてやすが、高域が鈍っているだけなのに丸みがあるアナログ的な音と捉える考えは嫌いですw
やっぱりDJ用針はスクラッチ対応できるようにカンチレバーを太くしたりコイルを多めに巻いて出力上げているので、音質という面では劣るような印象を受けました。ただ、針飛びや耐久性といった部分に関してはDJ針の方が上なので、使い勝手は捨てがたいものがありやすね。上記のDJ針も聴けないレベルじゃないので、個人の優先順位で選べば良いかと。
■ここからが本題。Shure m97xe VS オーテカAT7Vです。
Shure m97xe
再生周波数:20-22,000Hz
出力電圧:4.0mV
適正針圧:0.75g-1.5g
重量 : 6.6g
分離よりも音の繋ぎがしっかりした暖かみのあるサウンド。所謂スモーキーな音。生音が土臭く聴こえるのでJazzリスナーに好まれる理由はよくわかります。詳細は購入時のレビューも参考にして見て下さい。
長所
・埃、反響に強い(針先についた埃ブラシがスタビライザーの役目もします。埃まみれのレコードを再生しても
針はほとんど埃がつかない構造。)
・どんな音源も嫌味なく再生する。汎用性が高い。
・針飛びしにくい
・耐久性が高い(バックキュー可能、適正針圧超えても3gくらいまでは大丈夫)
・アナログらしい音色
短所
・出力が小さいので、DJ使用するならリード線などのカスタムは必須
・パンチのある現代的な音ではないので、CDの音と比べると定位感や分離では劣る。
(ただ、m97xe自体が分離をさせずに音を固まりで再生するようなコンセプトなので、分離の良さとは別の深みはあります)
Audio Technica AT7V
再生周波数帯域:15〜25,000Hz
出力電圧:5.0mV
針圧:2.0g標準
質量:約6.2g
とにかくクリアで全帯域が元気に派手な音。スモーキーな鳴りのするShure m97xeや、解像度の高くないDJ針と比べると薄皮一枚剥いだくらいの印象を受けます。鳴りは情報量に富んだ現代的な色です。ネットではドンシャリというレビューを見かけたので心配してますたが、低域、高域だけでなく中域も充分出ているので、そういう下品な印象は受けませんでした。
解像度が非常に高いためリバーブ成分の再生力、低域の力強さなどは目を見張ります。特に、コンガなどの生パーカッション、ピアノ、ボーカル、ビブラフォンといった倍音成分やリバーブ成分がハッキリ出るような音は、「こういう鳴りだったのか!」と気付かされるくらい別世界の発見がありやす。
なにより一番の特徴は、スピード感のあるキレ。例えるなら、空間を日本刀でザクザク切っていくような爽快感。高域の音まで拾っているので、アタック音が強調されるためにスピード感や分離感が出させるしょうね。ギターのカッティング音、バスドラのアタック音、チョッパーベースの弦の震えなども、ハッとさせられます。
アナログ=丸みがある音・スモーキーな音と捉えがちな風潮を踏まえると、鳴りはデジタルっぽいです。もちろん構造はデジタルじゃないので、アナログの良さは充分備えてます。分離感、定位感などに限ればCDの鳴りに近い、高い再生力がありやす。ベルクハイン周りの音やら国内のサウンドセッティングを聴いていると、最近は高解像度、高分離な音が流行ってるみたいですが、そういう意味では今っぽい鳴りで若い人にも好まれそうな音です。
長所
・圧倒的な解像度
・スピード感のあるキレ
・定位の再生力(3D的な鳴り)
・低域、中域、高域を高いレベルで再生してくれるのでパンチがある
・生音、ボーカルなどの複雑な倍音成分を綺麗に再生する
・音圧の低いレコードも元気よくGroovyに再生できる
・バックキュー可能(Shure m97xeやDJ針には劣りやすが、プレイには問題ないという印象です。旧イエローやLIVEraryで使用していたDJ針Stanton 680HPは頭出しでたまに飛んでたけど、それよりは少しまともなレベル。どうしても頭出しで飛ぶ時は、アンチスケーティングいじればほぼ大丈夫です。グニョグニョに曲がっているレコードもスタビライザーなしで再生してくれやす)
短所
・埃に弱い
カンチレバーが細いため多少の埃でも音質劣化します。なので、プレイ前のレコードクリーナーでコロコロしてやるのは必須。針先クリーニングもたまにした方がいいです。コロコロしてれば60分くらいは大丈夫だけど、針先の埃は数枚単位でこまめにチェックした方がいいすね。
・プチノイズに弱い
盤面の音を繊細に拾うため、プチノイズや大きな傷についてはShure m97xeより目立ちます。ただ、気になるレベルは明らかに盤質が悪過ぎるもので(ユニオン評価で言えばC以下とか)尚かつドラムなどのないブレイク部分に限るので、普通にやってれば特に気にする必要はないかな。
保留点
・針飛び
401宅で一晩テストした際に、どうしても飛ぶレコードが2枚程ありやした。ただ、全く同じレコードを自宅で試したら問題なく再生していたので、タンテのセッティングはシビアになるのかも(たぶん水平に関わる部分だと思います)。マーシー宅やLIVEraryで数時間テストした際には、一度も針飛びはしなかったので、今のところはそこまで不満は感じてないす。
心配なのはクラブのように振動の多い環境でやったらどうなるかという点で、これはやってみないとわからないです。Shure m97xeはイレブンやWoalでも一晩中鳴っていたので全く問題なかったです。
・耐久性
バックキューとかできるので予想より強いという印象ですが、壊れるまで使ってみないとなんとも言えないので保留です。DJ使用なら半年超えれば合格だと思いやすが。Shure m97xeはDJでラフに使っていても半年は余裕で持ちます。
■ついでにカンチレバーも比較。
Audio Technica AT7V
Shure m97xe
Pickering 625DJ
AT7Vのカンチレバーはかなり細いことがわかりやす。これが高い解像度や瞬発力のあるキレに繋がってるのしょう。バックキューは問題なくできますが、物理的に考えてShure m97xeより耐久性が高いってことは多分ないでしょうね。
写真を取って初めて気付きましたが、m97xeのカンチレバーがヒドい汚れすねw 針先交換してから1年くらいハードに使ったので自然劣化もあるでしょうが、おそらく手の脂による錆びでしょうね。DJ中に針先の埃を手で取っちゃう時があるんで、今後は気をつけないとですね。まだまだ気付かされることがたくさんありやす。
■今回は、Marcy宅で波形解析をしてみますた。AT7V、Shure m97xeをそれぞれRodec DJミキサー→卓ミキサー→RME Fireface400経由でPCに取り込んで、Logicのプラグインで解析しています。動画の出音はどちらもAT7Vですが、youtubeに再生するために圧縮しているので動画の音質自体はあまり参考にならないかもです。解析画面の参考にしてみて下さい。
サンプル音源は、音数や展開が多いものを選んでやす。
動画は、赤で囲った部分の動きに注目してみるとわかりやすいです。埋め込み動画は小さいので、youtubeのリンクをクリックして大きな画面で見た方がいいかも。
Audio Technica AT7V VS Shure m97xe Part1
音源:The Brat Pack/I'm never gonna give you up
左:Audio Technica AT7V
右:Shure m97xe
Audio Technica AT7V VS Shure m97xe Part2
音源:King Sunny Ade and His African Beats/365 is My Number
左:Audio Technica AT7V
右:Shure m97xe
高域の情報量、定位の広がり、低域の立ち上がり方など波形で見ても明らかに違いが出てますね。全体的な情報量はAT7Vの方が多いですが、部分的にはm97xeの方が拾っていたりする部分があるのが興味深いです。スーパーローに関しては、波形上だとm97xeの方が出ているように見えますが、聴覚上は明らかにAT7Vの方がズンズンいってやす。おそらくドラムやベースのアタック音が、前に出てるからなんでしょうか。
■総評としてはAT7Vは、圧倒的な解像度・広がりのある空間性・パンチのある音が魅力で、Shure m97xeは暖かみのある音質・どんなソースにも対応する汎用性の高さ・埃による音質劣化がほとんどない設計が魅力です。
どちらも音作りの方向性が全く異なるので、優劣については正直つけられないです。どちらの長所も両立できないので好みやシチュエーションでわけていくしかないでしょうね。こうやってオーディオ地獄にハマっていくと・・・
ちなみにマーシーは最初はShure m97xeの方が聴きやすいと語っていて、色々と試聴していくと解像度と音圧でAT7Vの方が優れいてるというコメントをしていました。ボクも同じ印象ですた。
安くて頑丈な針しか使ったことのない元B-boyの彼は「これが本当のレコードの音か」と、早速AT7Vの購入を考えてやした。
他にも何人かに聴かせましたが、総じて生音の再生に関しては笑ってしまう程の好反応がありやした。
面白かったのは、ヒップホップとかエレクトロのようなシンプルな構成の音楽が、恐ろしい音圧と解像度で再生されて新しい聴こえ方をしていたこと。A tribe called questとか空間系に聴こえましたからねw 80sのダサイPopシンセやリズムマシンも、スカッと綺麗に再生してやした。最近のベルリン盤のような定位や音圧が計算されたハウスやテクノも、細かいオートメーションまでハッキリ聴こえるので真価を発揮してくれやす。
派手な音でなので飽きやすそうな印象でしたが、実際に一晩中何回か再生した感じでは、情報量が多く細かい音や展開まで聴こえるので、むしろクソみたいなLPでも音質だけでお酒飲めちゃうくらいです。マーシーと波形解析していた夜にパーティーに行く予定でしたが、彼が針の音にハマってしまい結局、外には出ず6時間以上も連続試聴していたくらいです。
■ただ、埃や針飛びに関しては当然DJ針よりはシビアになるので、面倒臭いのは事実。多分、現場で盤面掃除をしないDJが一人でもいたら持ち込むのは無理でしょうねw 音質を取るか操作性を取るかでしょうが、DJ針からの乗り換えなら下手にアンプやスピーカーを替える以上の音質変化がありやす。サブ針でもいいので1つ持っておくと確実にアナログに対する見方は変わると思います。
なので、このHPではShure m97xe、AT7Vをプッシュしておきます。どちらを購入しても音質に関しては、DJ針には勝てるクオリティーを持っているはずです。
また長くなってしまったorz 次回で最後にします。